平成18年長崎大学国語国文学会「国語と教育」(第32号/12月発刊)に本校の取り組みを掲載しました。(中島)

学校図書館の活性化による読書教育及び国語教育への総合的なアプローチ

 

    平成18年度長崎大学国語国文学会「国語と教育」

 

長崎南山学園
図書主任 中島 寛

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 .  はじめに

新学習指導要領では「ゆとり」の中で児童・生徒に「自ら学び 自ら考える力」の育成をはかるとともに、個性を生かす教育の充実が規定されている。また「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り,生徒の主体的,意欲的な学習活動や読書活動を充実すること」とあるように学校図書館の役割やその重要性を明示している。

 

 これを踏まえ,長崎県では平成 16 年度から 5 年間をかけて「長崎県子ども読書推進計画」が策定され,子どもたちに豊かな人間性や確かな学力を身につけさせる基盤として読書に親しむ機会と環境を整備・充実するための方策が決定された。私立校である本校においても読書教育の重要性を認識し , 私学独自の個性ある読書環境の整備をはかることで,「生きる力」の育成をはじめ,国語教育の目標に対し総合的なアプローチが可能であると考えた。たまたま図書主任として図書館に関わる機会を得ることができた私は読書教育の推進に直接関わることができた。今回は本校での図書館活性化による読書教育推進の実践を紹介したい。

 

2 .  校内における図書館の位置づけと再生計画

  

 平成 12 年度までの本校の図書館の利用は一日に数名の生徒が利用するにとどまり,いわゆる「閉ざされた空間」であった。そこで,まずは学校における 図書館の位置づけ の見直しを行うとともに,「図書館再生計画」( 5 カ年計画)を作成した。

 

? 図書館を学校の中心に位置づけ,「学習・情報センター」としての機能を充実させる

 

? 調べ学習を中心として,各科の授業に対応できる蔵書の充実を図り,選書の見直し,  レファレンスの強化を行う

  

? 図書館を学校の文化面での拠点として位置づけ , 各種委員会活動や発表会などを積極的に推進する

  

  以上の3項目を柱として,ハード , ソフトの両面から図書館の再生を行った。ここでは特に ソフト面での取り組み について紹介する。

 

3 .  人が集まる図書館づくり

 

生徒の図書館に対する意識を変えるために,まずは図書館を積極的に授業で活用することから始めた。特に国語科では「調べ学習」をはじめ,グループ発表会や研究発表会など幅広く図書館を活用する機会を増やした。 また,授業だけではなく生徒会活動との連携を強化した。生徒会の各種委員会活動などを積極的に図書館で行うことで,より多くの生徒たちが図書館を利用することになった。また,図書ボランティアの方を招いて「読み聞かせ」や「ストーリーテリング実演」等を実施することで,確実に子どもたち読書に対する意識が変わってきた。文化祭等においては地域への図書館開放を実施し,各種のコンテスト作品の展示会や「先生がすすめる一冊の本」コーナーを設置するなど,教師と生徒がともに「図書館を創る」という意識で再生を進めてきた。その結果「人が集まる図書館」として生まれ変わることができたのである。現在では 1 日の図書館利用者数は平均 140 人以上と,県内の高校図書館の中でもトップクラスの利用率を誇る図書館に成長した。また貸出冊数も 5 年間で飛躍的に伸びる結果となった。(下グラフ「 5 年間の貸出冊数の推移 」・・・・省略)

 

4 .  図書委員会活動は国語教育の実践の場

 

その中でも図書委員会活動の活性化は図書館再生の大きな原動力となった。図書委員会では本の貸出,返却等の仕事はもちろんであるが,図書館広報紙の作成や本の紹介文の作成,新聞のテーマ別スクラップ集作りなどを積極的に行った。これらの活動はクラス単位での授業の枠を超えた国語教育の実践となる有意義な活動として機能した。例えば,「図書館広報紙」作成においては「情報を収集,整理し,正確かつ簡潔に伝える文章にまとめること」により自分たちが「伝えたいこと」を「伝え合う力」を高めることになった。特に広報紙の紙面において,著作権について詳しく学び,使用した言葉やイラスト,写真等が著作権の侵害に当たらないか慎重に検討を重ねることもできた。また,図書館紹介のプレゼンテーション資料作成においては,限られた時間の中でグラフや画像を使いながら,自分たちの図書館の様子や活動の報告を効果的に伝えるための台本作りをすることで「論理的な文章の構成」を考えることができた。このように図書館における活動は単に読書 量を増やすだけでなく,まさに国語教育の実践の場になるといえるのではないか。

 

(解説図省略)

 

上記の図のように,図書館活動は新学習指導要領の目指すところの「国語を適切に表現し的確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力を伸ばし心情を豊かにし,言語感覚を磨き,言語文化に対する関心を深め,国語を尊重してその向上を図る態度を育てる」ことを実践する格好の空間となり得る。もちろん,本校では専門性を持った司書の存在も大きい。また,国語科だけでなく,各教科との連携を図った上でこれらの活動を指導,実践していくことで更に教育効果が高まる可能性があるものと考える。

 

5 .  他校との連携、交流

 

平成 17 年度から長崎県高等学校文化連盟に新たに「図書専門部」が誕生した。本校の図書委員会も積極的に「図書専門部」の活動に参加している。特に,活動の中心となっている生徒の研修会「ライブラリーフェスティバル」では,県内の様々な学校との交流を通じて読書活動を深め,また様々な 本 との出会いの場となっている。また,図書館広報紙コンクールなどにおいては,自分たちの作成した広報紙が客観的に評価される機会となり,生徒たちは更によいものを作ろうという刺激を受けている。このように,今後は他校との連携を強化することで,自分たちの活動のレベルや質を高めていくことができるものと考えている

 

6 .  今後の課題

 

図書館の活性化が生徒の読書に対する意識を変え,また国語教育をより深めていくことはこれらの実践において確かな手応えを感じた。今後はこれらの活動を各科が連携して推進していく 仕組み作り が必要であると考える。図書館での活動は様々な分野の専門性を必要としている。一部の教師や特定の教科だけが図書館を活用するのではなく,各科がより連携を強め図書館での活動を支援していくことが必要になる。そのためには学校全体の図書館に対する共通理解と協力体制が必要なことはもちろんであるが,私たち教師自身が「生きる力」の育成を再認識し,社会生活に目を向けた教科経営を実践していくための,ひらかれた視野を持つ必要があると思う。

 

生徒達に本を 読ませる ,文章を 書かせる ・・・のではなく , 「本を 読んでみたくなる , 文章を 書いてみたくなる , 人に 伝えてみたくなる ・・・」ようにできるのが図書館活動である。教科の枠を超えた教育実践の場としての図書館の可能性を今後も探っていきたいと思う。

 

(今回は紙面の都合上 , 取り組み内容の詳細について紹介できませんでしたが ,詳しい内容等については本校のホームページ内の図書館のページ

 

http://www.test.n-nanzan.ed.jp/06_library/index_s.htm 」をご覧下さい。)

 

(長崎南山中学校・高等学校 なかしま・ひろし)

コメントは受け付けていません。